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エメラルドマウンテンで、水出しコーヒー

UPDATE 20120815

エメラルドマウンテンで、水出しコーヒー

昔栽培されていたコーヒーの、苦味やエグ味を和らげるために考案された抽出方法

日陰が恋しい昼下がり、初の「水出しコーヒー」にチャレンジ。
またの名を「ダッチコーヒー」。かつてのオランダ領インドネシアで、当時栽培されていたロブスタ種の苦味やエグ味を感じさせない飲み方として考え出された方法とのこと。
もともとが、ロブスタ種への苦肉の策。それを改良に改良を重ねられたアラビカ種のコロンビアで。しかも生産される豆のうち厳選された1%というエメラルドマウンテンで抽出するとは、植民地時代にはプランテーションの主人でも叶わなかった夢のコーヒ、かもしれない。

waterdrip_011.コーヒーをセット

セラミックフィルターをセットしたロートに、ミディアムロースト・細挽きのエメラルドマウンテン35グラムを入れて平らにならし、濾紙をのせる

タンクに水を500cc(4人分)、調整コックを開いて滴下速度を調整。5秒に3滴、これがなかなか難しい。結局、秒針を見ながら1滴・・・2滴・・・となんとか固定。


waterdrip_022.滴下

午後1時25分、滴下スタート。水滴は金色のシーソースプーンに溜まり、10滴目にその重みで傾く。スプーンがもどる時にカターンと軽い音をたてる、「ししおどし」のよう。

たとえば京都の庭の一角にしつらえた茶室に座して聞く「ししおどし」の響きが、周囲の静けさを深めるように、数秒おきのスプーンのシーソー音に耳を澄ましていると、鳥の声や車のクラクションなど日頃意識しない音を耳がキャッチするのが分かる。


waterdrip_033.抽出

水滴は濾紙を通って粉に滲み、約12分で全体に滲みわたり、フラスコへコーヒーの滴下開始。後はひたすら待つのみ。

スプーンに溜まる透明な水、フラスコへ落下する琥珀色の雫、ひろがる波紋。その規則ただしい繰りかえしを見詰めているうちに、静かに訪れる睡魔。

しばしまどろみに身をゆだね、眼が醒めたらコーヒーの滴下を見守り、シーソースプーンの勤勉さをたたえ、記憶の旅へと物思いにふけるのもよし。

瞑想効果というより、メトロノームを数えるような催眠効果のほうがありそう。あるいは読書に浸ったり、溜まった書類を整理したり。時おり目を向けるフラスコには、夏の午後の陽射しに透ける琥珀色の液体。それはタンクの水が落ちきる までの限定された間だからこその、日常のこころ持ちとは少し異なる不思議な時間。


waterdrip_044.最後の一滴〜味わい

4時35分、タンクからの最後の一滴が落ち、スプーンがコクンと肯いて数秒、3時間10分にわたる抽出完了。

グラスに注いだコーヒーは深く静かに澄みわたっている。まずひと口、口腔にゆっくり広がる濃く奥行きのある風味は初めてのもの。幾重にも畳まれた精妙な味わいと香りが、まったりと解けてゆくような、そのくせスキッと喉をとおり、 あと口の爽やかさは格別。こんな贅沢なアイスコーヒーを飲んでしまったら、後の人生はどうなるのだろうか。

温めて飲むと閉じ込められていた香りが一斉に花開き、その味わいはまた格別と聞いたが、その間もなく、同席の4名全員あまりの美味しさにごくりごくりと飲んでしまい、温めての味は未確認。それは次回の楽しみに。

タンクの水量が減ると滴下の間隔もおそくなるので、途中で調整した方がよいとドリップ器具の説明書にあるが、今回は最初のまま最後まで滴下。焙煎の度合い、粉の量、抽出の経過時間で味やコクが変化するとも書いてあるが、その変化の醸しだす豊穣な世界の予感に、水出しコーヒーの奥の深さに思いをはせつつ「水出しコーヒー」初チャレンジは快い満足のうちに終了。