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Image 126コーヒーの美味しさは香りか味か、
どちらが優先しているでしょうか。

誰でも一つや二つ、香りにまつわる記憶を持っているのではないでしょうか。あるときは気持ちを和ませ、あるいは溌剌とさせ、身体にも影響する香りの不思議。ハーブの繁る庭をぬけたショップで、エメラルドマウンテンの香しいカップを前にして、香りのもつ限りない魅力についてお話いただきました。

 

香り研究家 嶋本 静子さん

香りは脳が感じている。

Image68Image67Image66Image65— 人間の視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感のなかで、嗅覚は不快な「臭い」から良い「匂い」、そして「香り」までとかなり複雑な感覚器官ですね。

嶋本先生:そもそも鼻はかなり原始的な器官です。犬や猫など動物は、まず匂いを嗅ぎますよね。原始人もそうしたでしょう、食べて安全なものかどうかまず匂いで確かめる。それは生死を分ける、命にかかわる大問題だからです。

— それは同時に人にとって病を治す薬草や、心をもてなす香りにつながったものなのですね。匂いの感度は人によって違いますね。

嶋本先生:たしかに鼻のきく人、鼻のいい人はいますが、匂いは脳で組み立てるのです。
脳がイメージつくることで始めて認識されるのです。
嗅覚は味覚より訓練ができる感覚で、調香師の学校で基礎科の生徒に教えていたときのこと。新しい香りを作るための教育ですから200種類の植物香料を嗅ぎ分けて完全に脳に入っていなくてはいけません。それで一晩に6種類づつ嗅いで覚える。鼻が慣れ、脳が記憶するまで繰り返します。

— そうすれば覚えていくものですか。

嶋本先生:覚えます。特にヒノキのように日本人にとって身近なものは早いですね。
最初は好きな香りはというと、レモンとミントとか、すでに記憶にある匂いを好みます。
慣れない匂いを拒絶するというのは、身を守るための本能的な反応なのでしょうね。

— 原始時代から今に伝わる自衛本能ということですね。

嶋本先生:イヤなことやどん底にあった時に嗅いだ匂いは、いつまでも苦手ということもありますね。その時のことは忘れても、匂いの記憶は脳に刻まれている、とか。

— 最近は香り、特にハーブなどの力や治療の効果がさらに注目されているようですが、ハーブとは何ですか。

嶋本先生:簡単に言えば香りがあって人間に役に立つ植物を指します。
香りを大きく分けると草や樹木の植物系、麝香、龍涎香、海狸香などの動物系の2つです。

 

香りの素晴らしい効果。

Image60嶋本先生:香りの実験というのがあります。部屋を分けた2つのグループにつるつるした塗りの箸で小豆をつまんで右に、左に移すことをくり返してもらいます。時間がたつと豆を落としたり動作が遅くなりますが、片方の部屋だけには淡い薔薇の香りをさせて続けます。すると、明きらかにそちらの部屋は作業能率が変わらず、倦怠感に陥ることも少ないという結果がでています。

— 香りにはそれほどの効果があるのですね。

嶋本先生:薔薇の香り成分を抽出したエッセンシャルオイルですが、ホルモンに働きかけ神経に作用します。

薔薇の代わりにエメラルドマウンテンのこの素晴らしい香りをさせたらどうなるでしょうね。ちょっとやってみたい実験ではありませんか。

— コーヒーのように味覚を伴うものは、まず飲みたくなってしまうかもしれませんね。
コーヒーを飲むと集中力が高まるというデーターはあるようですが。

嶋本先生:コーヒーの美味しさは香りと味覚、どちらが優先しているでしょうね。
鼻に詰め物をしてコーヒーを飲んでも決して美味しくはないのでしょうね。

— 風邪をひいて鼻が詰まっている時も、なにを食べても味気ないですね。

嶋本先生:高名なソムリエの方にお聞きしたのですが、ワインはまず色と香りといわれますが、喉に落ちてゆく時にクッと鼻に抜ける、その瞬間が大切だと仰っていました。
喉から脳に直接伝わるといいますか、味覚と嗅覚が同時に発揮されての美味しさでしょう。

— コーヒーの味わいも同じことだと思います。

嶋本先生:エメラルドマウンテンの香り、最初に感じたのは酸っぱいとか苦いとかの一方だけではない、いろいろな香りがふくまれているなということです。

— たしかにエメラルドマウンテンの特徴のひとつが酸味と苦味のバランスが良いということがあります。もう一つはなんといっても香りの高さ、これは定評があります。

嶋本先生:先ほどの味覚と嗅覚の話で言えば、それだけ美味しさも優れていると。
エメラルドマウンテンはよくできた飲みやすく丸いコーヒーだと思います。先日コーヒー好きの友人にご馳走しましたら「また飲みたくなるコーヒーだね」との感想でした。

— 一般的には洗練された繊細な味わいということで、特に女性の方に好まれるようです。

 

男と女で違う香りの影響。

Image55嶋本先生:女性と男性では香りの及ぼす影響が異なります。香りで気分が左右されるのは女性、皮膚感覚的な違いでしょうか。中世のヨーロッパでは女性がヒステリーをおこしたら直ぐに薔薇を嗅がせろと言われていたそうです。薔薇は女性の花でした。
当時の文献に子宮と薔薇の形の相似性について書かれたものもあるそうです。

— そう言えば、中世の絵画には薔薇がたくさん描かれていたような気がします。

嶋本先生:当時はオールドローズですが、薔薇は胃の薬でもありました。作っていたのは修道院、中世の修道院は薬草の宝庫で、一般の薔薇の栽培を禁止していた時もあったとか。修道院が薬を独占して売りたかったからでしょうね。と同時に、オールドローズですから香りがすばらしい、その香りで善男善女が快楽にふけるのを防ぐ、という大義名分もあったようです。

— それだけ当時は薬が重要だったということでしょうか。

嶋本先生:薬と武器は権力の象徴だったでしょう。エジプト最後の女王だったクレオパトラは、ナイル川の上流に秘密の植物園を持っていたと言います。薬草というより毒草園、毒草研究の最たるものが毒を盛られた際の解毒ですから。エジプトを占領したローマ軍が最初に向かったのもその植物園だったそうです。

— そのぐらい価値が高く、またエジプトはローマより薬学などの研究も進んでいたということですね。

嶋本先生:私たちはヨーロッパが昔から進んでいたように思っていますが、ヨーロッパはエジプトや中東の文化から多くを学んでいます。医学、数学、天文学など多くの点でアラビアの方が進んでいました。香料も薬も、コーヒーもそうですよね。

 

暗闇で「その人」を告げる香り。

Image17嶋本先生:香料が日本に伝わったのは中国経由です。奈良時代に鑑真が貴重な珍しい文物の一つとして伝えたといわれています。まず薬として、天皇や高貴な人へ用いられました。

— それが平安時代には「源氏物語」にみられるような香の世界が成立したのですね。

嶋本先生:当時の香りは練香、各種植物材料を粉末にして蜂蜜で練リ固めたものです。

— それは宮中の人間しか使えない贅沢品だったのですね。

嶋本先生:それはもう舶来の高価なものですから。源氏物語の作者である紫式部は中流の下くらいの貴族の出身ですから、本来であれば源氏物語に書かれたような高価な香りは知らなかったはずです。それが当時の最高権力者である道長の娘に仕えることによって、最高の物を知り、本来その階級にあった人以上に惹かれ精通し、物語のなかに取り入れたのでしょう。

— 物語のなかで残り香や衣装にたきしめられた香りなど、物語の展開や、人物たちの心理の動きに「香り」が大きな役割を果たしていると、先生の著作「香りの源氏物語」で改めて知らされました。

嶋本先生:たとえば宇治十帖は浮舟をめぐる薫君と匂宮、2人の男性の香りを母が取り違えたことからおこる悲劇です。浮舟の母は高貴な香りをきちんと知らないため区別がつけられなかった、彼女の出自の低さを物語ってもいるわけです。それは作者式部のかつての姿でもあったでしょう。

Image50— なにか哀しいお話でもありますね。平安時代の真っ暗な夜には、顔が分かりませんので香りがその人の標しだった訳ですね。五感のなかで今は圧倒的に「眼」が優位ですが、灯りの乏しい時代には鼻や耳、嗅覚や聴覚などの役割も大きかったのでしょうね。

嶋本先生:現代は、空調に操作されて五感が散ってしまう悲しさがありますね。
それでも夕方、暗くなるにつれて香りの濃くなる白い花がふわっと浮き上がり、昼間は感じなかったいろいろな匂いも立って、今でも私の好きな時間です。

— 虫を惹きつける色彩を持たない白い花は、その代りに強い芳香で虫を誘惑すると、著作にも書かれていますね。

嶋本先生:植物学者の説ですが、種を残すための戦略です。白い花といえばジャスミン、スイカズラ、夕顔などありますが、濃厚な香りといえば山百合が代表でしょうか。
百合の花を数本飾って部屋を閉めきり、翌朝その部屋の扉を開けたときの強烈さといったら凄いです。百合で一杯の真っ暗な場所に一晩閉じ込められたら、と想像すると怖くなりませんか。

— 頭が痛くなるだけで済みませんか。人格が変わってしまうとか・・・・。

 

エメラルドマウンテンのアロマテラピー効果は?

Image3嶋本先生:コーヒーの香る暗い部屋に閉じ込められるのどうでしょう。エメラルドマウンテンと一晩過ごしても、そうはならないと思います。

— コーヒーの香りもアロマといいますが、エメラルドマウンテンのアロマテラピーはなにに効くでしょうか。

嶋本先生:頭がすっきり冴えるとか、眠気を覚ますとか。でもやはりコーヒーは嗅ぐだけではなく、飲みたいですよね。気分転換とか仕事のピリオドとか、コーヒー好きにとっては心と身体の毎日の欠かせない時間ですものね。

— コーヒーの香りももちろんですが、もっと色々な香りを生活に取り入れると、毎日が豊かになる気がします。

嶋本先生:私は枕が替わると寝付けないもので、出張先のホテルではよく枕カバーにラベンダーのエッセンシャルオイルを一滴たらします。

— そうすると眠れますか。

嶋本先生:ラベンダーは沈静作用があるので、いつのまにか寝入っています。それにラベンダーは原液のまま使える唯ひとつのオイルなのです。

— 他は駄目なのですか。

嶋本先生:そうです。知らない方がオレンジやレモンのエッセンシャルオイルを飲んだりすると大変です。
胃の粘膜をやられますし、肌につけると火傷のようになります。薬は毒でもありますから。上手に使えばほんとうに役に立ちます。私はお風呂にもよく入れます。
ほんの数滴たらすだけですが、ジンジャーを入れると身体がとても温まります。
飲み過ぎたときはジェニパーを入れたお風呂に入ると二日酔いになりません。ジェニパーは水分や脂肪分を排出するのでデトックスにも有用なのです。

— そしてお風呂上りにのむ一杯のコーヒー、全身にしみわたるような美味しさを感じるかもしれませんね。今日は興味深いお話をありがとうございました。

嶋本 静子 Shizuko Shimamoto

福岡県出身。日本大学芸術学部非常勤講師。北鎌倉「香り仕事」オーナー。香り、花、ハーブ、アロマテラピ ーに関する講座、講演、セミナー、執筆、イベント構成などで全国をとびまわる。大学では香りと文学の講義 を受けもつ。香りを通して、文学作品を読むことをメインのライフワークとしている。

 

北鎌倉「香り仕事」

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店内

店内

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香り仕事ガーデンからの フレッシュハーブ7種類

香り仕事ガーデンからの
フレッシュハーブ7種類

このハーブにオールドローズの花びら(ドライ)が加わって8種類のブレンドで作るハーブティー。

このハーブにオールドローズの花びら(ドライ)が加わって8種類のブレンドで作るハーブティー。

ハーブや草花に囲まれたログハウス。 セミナールーム、喫茶室として使っています。

ハーブや草花に囲まれたログハウス。 セミナールーム、喫茶室として使っています。

 

この日の当番スタッフ、大矢眞美子さん

この日の当番スタッフ、大矢眞美子さん

 

香り仕事 ショップ情報

■ 住所:〒247-0062 鎌倉市山ノ内1434
鎌倉街道を鎌倉方面に向かい、浄智寺先の踏切手前右側。
■ 営業時間:10:45〜17:30
■ 定休日:月曜・火曜(5、6、11月は無休)
■ 駐車場:2台
■ TEL&FAX:0467-22-6478
■ URL:http://homepage2.nifty.com/kitakama/shop/kaori.html

この記事は、2009年〜2011年の間に公開された記事のバックナンバーです。表示されているゲストの方の所属や肩書きは、掲載当時のものです。また、コロンビア産コーヒーに対するエメラルドマウンテンの割合も、その時の収穫量などにより、1%と表示されていることがあります。