兵庫県西宮市 M.O
【エメマン賞】
よく通った喫茶店があった。半年前までは、毎日通った店。今はもう行くことができない。店がたたまれたと同じ時期に私は病気になった。現在も闘病生活は続いている。店の最後に、マスターに会えなかったことを悔んでいる。職場から歩いて五分。一日に二度行くこともあり、仕事から解放される唯一の場であった。マスターは私と同年代。コーヒー自体は、それほどうまくはない。そして、たいてい私しか客がいない。カランカランとドアの鈴を鳴らして入ると、いつもギターを弾いてるマスターがいる。だが、そんな店が、マスターが好きだった。いろんな話をした。私が疲れているときには、話しかけることなく、やさしく立っている。よく見てくれていたのだと思う。私が通いつめた間に、彼は結婚し、かわいい女の子も授かった。うれしそうに写真も見せてくれた。店を閉めると聞き、私は、自分の一部がなくなる思いだった。ちょうどそのころ私の体調も悪く、しばらく行けないかもと思っていたときだった。私自身も「終わり」を感じた。そして、店の最後と合わせるように病気になった。最後のコーヒーを飲みたかった。マスターと話したかった。